日本人が歯を失う原因でとても多いとされる歯周病。しかし、多くの人が歯周病にかかっていても無自覚のまま過ごしていることが多いのが現実です。歯周病になってしまう原因からその症状を解説します。
また、自分でできる歯周病予防の方法もお伝えしますので、歯茎の腫れや口臭が気になる方はぜひ参考にしてください。
歯周病とは
歯周病と虫歯(う蝕)は歯科の2大疾患といわれており、成人期において歯を失う原因の多くは、歯周病もしくは虫歯によるものです。
歯周病は、プラーク中の歯周病原細菌によって引き起こされる感染性炎症性疾患で、歯の周りの歯茎(歯肉)に炎症が起こり、さらに進行すると歯を支えている骨が溶けてしまう病気です。
歯と歯肉の境目(ポケット)の清掃が行き届かないと、そこにプラークが停滞し炎症を起こし、歯肉が赤くなったり、腫れたりします。
自覚症状に乏しいため、気がつかないうちにさらに進行すると、膿が出たり歯が大きく動揺し手遅れとなり、場合によっては、抜歯することもあります。
歯周病の定義
歯科の2大疾患にも数えられる歯周病については、厚生労働省が定義を発表しています。
以下が厚生労働省が定めている歯周病の定義と、虫歯との違いです。
歯と歯茎(歯肉)の隙間(歯周ポケット)から侵入した細菌が、歯肉に炎症を引き起こした状態(歯肉炎)、それに加えて歯を支える骨(歯槽骨)を溶かしてグラグラにさせてしまう状態(歯周炎)を合わせて、歯周病といいます。
細菌の作り出す酸によって歯が溶かされて、歯に穴が開く病気が虫歯で、歯周病は虫歯とは大きく異なる病気です。
出典:厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-03-001.html
歯周病の原因
歯周病には、歯周病原菌といわれる細菌が関わっていると考えられています。
プラークの中には、1mgあたり1億個以上もの細菌が含まれ、歯磨きが充分でないと歯垢(プラーク)が歯と歯肉の境目に増えていきます。歯肉が腫れたり、出血しやすくなったりするのは、細菌が産生する毒素によるものです。
この状態から進行していくと、歯肉が炎症によってどんどん腫脹し、歯周ポケットが深くなります。深くなった歯肉ポケット(歯肉溝)の中は、歯周病の病原菌の繁殖しやすい酸素の少ない状態であるため、歯周病原菌の繁殖はさらに進みます。
また、プラークの中の細菌などは唾液に含まれるカルシウムやリン酸と結合して、歯の表面に付着します。この付着した軽石のような硬い物質が歯石です。
細菌はこの歯石を足がかりにして、さらにポケットの奥深くへと進行し、歯周病原菌の毒素が歯を支える歯槽骨を溶かすことによって、歯がグラグラしてきたり、歯肉が下がってきたり、歯が抜けてしまったりします。
おもな歯周病原菌にはP.g.菌(Porphyromonas gingivalis)・A.a.菌(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)・P.i.菌(Prevotella intermedia)・T.f.菌(Tannerella forsythia)・T.d.菌(Treponema denticola)などが知られていますが、この他にも数十種類もの細菌が歯周病との関連を疑われており、他の多くの感染症のように1種類の細菌やウィルスの感染によって起こるものではありません。
出典:厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-03-001.html
歯周病の特徴
歯周病の原因となる細菌は、口腔内の環境や身体全体の健康に影響を及ぼすことが特徴です。
厚生労働省の発表によると、喫煙習慣の有無や虫歯などの治療痕が歯周病の発症に影響するとされています。
また、糖尿病患者は歯周病の進行が早いことも知られています。
歯周病の直接の原因は、上述した通りプラークに含まれる細菌です。歯磨きのしかたが悪いと歯周病になる可能性が高くなります。
また、喫煙者は非喫煙者と比較して歯周病に3倍以上罹りやすいといわれています。[3]、また、糖尿病は、歯周病によって進行しやすいことが知られています(「口腔の健康状態と全身的な健康状態の関連」参照)。その他に金属やプラスチック製の被せ物や詰め物と歯の間に段差や隙間があると、プラークが付着しやすくなり、歯周病を悪化させる原因の1つとなっています。
出典:厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-03-001.html
参考文献
厚生労働省.
歯科疾患実態調査:結果の概要 統計表一覧 平成28年歯科疾患実態調査.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-17b.html
(公財)8020推進財団.
第2回 永久歯の抜歯原因調査報告書.
東京:8020推進財団;2018.
https://www.8020zaidan.or.jp/pdf/Tooth-extraction_investigation-report-2nd.pdf
内藤徹 監修.
知ってて得した! 歯周治療に活かせるエビデンス 増補改訂版(歯科衛生士臨床のためのQuint Study Club 知っておきたい知識編④).
東京:クインテッセンス出版;2017. p.22-27.
歯周病が全身に与える影響
歯周病は「ただの歯茎の病気」にとどまらず、全身へ影響し疾患を引き起こす可能性があります。
歯周病が引き起こす疾患についてくわしく見ていきましょう。
- 狭心症・心筋梗塞・脳梗塞
- 糖尿病
- 妊娠性歯肉炎
- 誤嚥性肺炎
- 骨粗鬆症
- 関節炎・腎炎
- メタボリックシンドロームにつながる可能性
狭心症・心筋梗塞・脳梗塞
動脈硬化は、不適切な食生活や運動不足、ストレスなどの生活習慣が要因とされていましたが、別の因子として歯周病原因菌などの細菌感染がクローズアップされてきました。
歯周病原因菌などの刺激により動脈硬化を誘導する物質が出て、血管内にプラーク(粥状の脂肪性沈着物)ができると血液の通り道は細くなります。
プラークが剥がれて血の塊ができると、その場で血管が細くなったり、詰まったりします。これにより発症の可能性があるのが、狭心症・心筋梗塞です。
また、歯周病の人はそうでない人の2.8倍も脳梗塞になりやすいといわれています。
血圧、コレステロール、中性脂肪が高めの方は、動脈疾患予防のためにも歯周病の予防や治療がより重要となります。
糖尿病
歯周病は以前から、糖尿病の合併症の1つといわれてきました。
実際、糖尿病の人はそうでない人に比べて歯肉炎や歯周炎にかかっている人が多いという疫学調査が複数報告されています。
さらに最近、歯周病になると糖尿病の症状が悪化するという関係も明らかになってきました。
歯周病は、糖尿病の血糖コントロールを悪化させることが知られています。これは、歯周病による炎症がインスリンの働きを阻害し、血糖値のコントロールを難しくするためです。逆に、歯周病の治療で、糖尿病も改善することも分かってきています。
つまり、歯周病と糖尿病は、相互に悪影響を及ぼしあっているということがいえます。
妊娠性歯肉炎
妊娠中は、女性ホルモンの影響で歯茎の赤みや腫れ、出血といった症状が出る「妊娠関連(性)歯肉炎」になりやすい時期です。場合によっては、早産や低体重児出産のリスクが高まります。
出産が近くなると、母体は子宮内でプロスタグランジンと呼ばれる物質を生成し始めます。
このプロスタグランジンには、出産を促進する重要な役割があります。
この物質の生成によって、母体は出産準備に入るわけです。
しかし、歯周病が原因で炎症が生じると、炎症を抑えようとしてプロスタグランジンが早期に生成されることがあります。
この結果、本来の分娩予定時期よりも早く子宮が収縮を始めてしまい、結果として早産のリスクが高まることになるのです。
妊娠中の歯周病と、低体重児および早産の危険性の関係は、口の中の歯周病細菌が血中に入り、胎盤を通して胎児に直接感染するからだともいわれています。
そのリスクは実に7倍にものぼり、タバコやアルコール、高齢出産などよりもはるかに高い数字です。
生まれてくる元気な赤ちゃんのために、確実な歯周病予防を行いましょう。
誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎とは、食べ物や異物を誤って気管や肺に飲み込むことで発症する肺炎です。
人の身体は咳をすることで、肺や気管に異物が入らないようにしています。
しかし、高齢になると肺や気管の機能が衰えるため、口の中の常在細菌を食べ物などと一緒に飲み込み、細菌が気管から肺の中へ入ることがあります。
その結果、免疫力の衰えた高齢者は誤嚥性肺炎を発症するリスクが高まります。
誤嚥性肺炎の原因となる細菌の多くは、歯周病菌であるといわれており、誤嚥性肺炎の予防には歯周病のコントロールが重要です。
骨粗鬆症
骨粗鬆症は全身の骨強度が低下し、骨がもろくなって骨折しやすくなる病気で、日本では推定約1,000万人以上いるといわれています。そして、その約9割が女性です。
骨粗鬆症の中でも閉経後骨粗鬆症は、閉経による卵巣機能の低下により、骨代謝にかかわるホルモン「エストロゲン」の分泌量が減ることにより発症します。
骨粗鬆症にかかっている人は歯周病にかかりやすく、重症化する傾向にあるのが特徴です。
また歯周病によって歯を失うと、噛む能力が低下して、食物の消化吸収力の低下を招きます。
その結果、ビタミンⅮやカルシウムが不足して低栄養となり、骨粗鬆症を悪化させることがあります。
関節炎・腎炎
関節炎や糸球体腎炎の原因となる黄色ブドウ球菌や連鎖球菌は、口腔内に多く存在します。
歯周病菌も関節炎や糸球体腎炎の原因となる細菌の1つであり、歯周病菌が血液中に入り込んだり、歯周病菌に作られた炎症物質が血液中に入り込んだりすることで、関節炎や糸球体腎炎を起こすことがあります。
メタボリックシンドロームにつながる可能性
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群:通称メタボ)とは、内臓脂肪型肥満に高血糖や高血圧、脂質異常などの動脈硬化の危険因子が重なりあった状態のことです。
体に脂肪が溜まりすぎるとさまざまなサイトカイン(細胞と細胞の間で情報伝達をする役割をもつタンパク質成分)が分泌され、動脈硬化を促進させます。
このサイトカインと同じ物質が歯周病でも出てくるため、歯周病がメタボ関連の病気である糖尿病を悪化させると考えられているのです。
また、実際にメタボの判定基準に当てはまる数が多いほど、歯周病のリスクが高まるという研究結果があります。
歯周病の病巣から放出される毒素は、脂肪組織や肝臓のインスリン抵抗性を増加させ、血糖値を上昇させます。
また、重度の歯周病患者は血中CRP値が上昇し、動脈硬化や心筋梗塞発症のリスク亢進と密接に関与すると考えられているのです。
さらには、この慢性炎症が個体の老化を促進するという論文も出されています。
このように歯周病とメタボリックシンドロームの関連性が注目されています。
歯周病の進行段階
歯周病は歯肉炎・歯周炎の総称です。歯周病は気づかぬうちに進行し、最悪の場合、歯が抜けてしまう病気です。
さらに歯周病の恐ろしいところは、口内の病気で終わらず、歯周病菌が血液に入り込み、血流にのって運ばれることで、全身疾患を引き起こします。
歯周病予防として、まずは歯周病の進行段階について理解しましょう。
歯肉炎 歯茎に軽い炎症が起きて、ブラッシング時などに出血することがあります。 |
軽度歯周炎 顎の骨が溶け始め、歯茎に腫れが生じます。 冷たいものがしみる・口臭が強くなるなどの症状があります。 |
中等度歯周炎 顎の骨が半分以上溶けて、歯茎の腫れ・出血・グラつきなどが見られます。 |
重度歯周炎 さらに顎の骨が溶けて歯のグラつきがひどくなり、歯根の露出や膿の排出などが見られます。 |
歯肉炎
歯肉炎は、歯周病になる手前の症状のことで、歯茎にのみ炎症が起きている状態です(歯を支える骨には影響は及んでいません)。
歯周ポケットにプラークが溜まり、プラークに潜む歯周病菌の影響で歯茎に炎症が起こります。
歯肉炎の段階では痛みがほとんどないため、症状に気がつかなかったり、歯茎の腫れや出血があっても放置したりする人も多くいます。
しかし、放っておけば症状はどんどん進んでしまうので、そうなる前にしっかりケアすることが大切です。
歯肉炎の直接的な原因はプラークであり、ほとんどの場合はブラッシングが不充分でプラークを取り切れないことから歯肉炎を発症します。
歯周炎
歯周炎は軽度の場合、歯と歯茎の境目にプラークが溜まり、細菌が出す毒素によって歯茎が炎症を起こして赤く腫れています。痛みは伴いませんが、ブラッシングの際に出血することがある段階です。
歯茎の炎症がさらに進み、中度歯周炎となると歯周ポケットもより深くなっていきます。
顎の骨が半分くらい溶かされてしまい、歯がグラつきはじめるので硬いものが噛みにくくなってきます。
歯茎からの出血だけでなく、歯と歯茎の間から膿が出ることもある段階です。
重度になるとさらに症状が進行し、歯を支える顎の骨がほとんど溶かされ、歯が激しくグラつくようになります。
放置しておくと歯が抜け落ちてしまう末期の状態です。通常の食事も痛みを伴うため食べにくくなります。
自分でできる歯周病予防・ケア方法
歯周病は口の中の細菌による感染症です。まずは、元凶である歯周病の原因菌を増やさないようにしましょう。
歯周病の原因となる歯垢(プラーク)は、生きた細菌の塊です。歯とほぼ同じ乳白色で水に溶けにくく、歯の表面に粘着しているため、うがいをするだけでは取り除くことはできません。
しっかり歯磨きをして、歯垢(プラーク)を取り除くことが大切です。
歯周ポケットを意識した磨き方
歯周病菌の生息場所は、歯周ポケット内の歯垢(プラーク)です。歯垢(プラーク)をきちんと除去するのは、歯周病予防において基本中の基本です。
歯周病の中でも初期で、炎症が歯肉・歯茎に限られている歯肉炎の状態なら、歯垢(プラーク)を取り除くセルフケアで元の健康な状態に戻すことができます。
歯と歯茎の境目を重点的にブラッシングする
ハブラシの毛先を歯と歯茎の境目に45度の角度であて、5mm程度に細かく動かしながら軽い力で磨きましょう。
ハブラシの毛先を歯と歯茎の境目に当て、1〜2本ずつ描きだすように小刻みに動かしましょう。
歯周ポケット深くの汚れは、歯科医院で定期的に除去
歯周ポケットが深くなってくるとハブラシの毛先が届かず、自分では磨くことができません。また細菌とその産生物の塊である歯垢(プラーク)は、時間が経つと歯石になって、やはり歯磨きでは取り除くことができなくなります。
定期的に歯科医院で清掃を受けて除去してもらいましょう。
歯周病のセルフチェック方法
歯周病は、自分で気づかないうちに進行してしまう恐ろしい病気です。
歯や歯茎の状態を観察して、思い当たるものをチェックしてみましょう。
CHECK
- 歯肉の色が赤い、もしくはどす黒い。
- 歯と歯のあいだの歯肉が丸く、腫れぼったい。
- 歯肉が、疲労時やストレスがかかっているときに腫れやすい。
- 歯肉が退縮して、歯と歯のあいだにすき間ができてきた。
- 歯が長く伸びてきた。
- 歯の表面を舌でさわるとザラザラする。
- 歯磨き時などに歯肉から出血しやすい。
- 起床時に口が苦く、ネバネバして気持ち悪い。
- 歯肉を押すと白い膿がにじみ出てくる。
- 歯の動揺がある。
- 歯と歯のあいだに食べ物が挟まりやすい。
- 上顎の前歯が出てきた。
- 人から口臭があるといわれる。
出典:歯周病チェックシートhttps://denthealth.lion.co.jp/know/checksheet/
野口俊英ほか:歯周病のチェックポイントと予防法、口腔ケアのABC(河合幹ほか編)、
医歯薬出版、1999, p168
以上の項目に1つでも当てはまったら、歯周病の恐れがあります。歯科医院の検診に行きましょう。
まとめ
ここまで、歯周病について解説してきました。歯周病は気づかないうちに進行していきます。
歯周病になる前のケアが大切です。
チェックリストであてはまる項目があったら、歯周病のリスクが高い状態です。
一度、歯科医療機関で検査を受けることをおすすめします。
また、歯周病の予防を日々の生活に取り入れることで、健康的な口腔環境を維持することが可能となります。定期的な歯科医院での検診はもっとも重要です。
京急・旗の台駅の「旗の台駅前KT歯科・矯正歯科クリニック」では、幅広い歯のお悩みを解決すべく、各分野に強い担当ドクターがチームとなり、患者様ひとりひとりの状況に合わせた治療を提案させていただきます。
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自分でも受けたとい
思える
歯科医療を
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旗の台駅前KT歯科・矯正歯科クリニックでは、「高い専門性」「綿密な治療計画」
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患者様が通う回数の最小化を目指します。
また、治療は天然歯にこだわり、できるかぎり患者様ご自身の歯を残すために治療努力をします。
サイト監修者について
旗の台駅前KT歯科・矯正歯科クリニック
院長 中島 優
東京歯科大学を卒業後、大阪府内の複数の歯科クリニックにて歯周病治療を基盤とした総合歯科治療に取り組んできました。
2024年8月から旗の台駅前KT歯科・矯正歯科クリニックにて院長に就任し、一般歯科だけではなく、矯正歯科治療やインプランドなどの高度な技術を要する幅広い治療にも対応しております。通いやすい歯科医院であり、話しやすい歯科医師であることを心掛けております。